風のささやき

夕暮れの野原に

楕円の夕日が稜線に落ちて行くと
遠くの家々の窓に明かりが一つ二つと点って行く

そこからは随分と遠く離れて
僕は一人で小さな野原に立っている
懐かしい匂いのするあぜ道を通り抜けて
風と鬼ごっこをしながら
僕の歩みはいつでも人から
離れて行こうと欲している

けれど僕は寂しくはない
何も語らない野の草が
懐いた犬の尻尾のように
僕にじゃれ付いて来るから
そうしてすすきは
夏の面影をきれいにする作業に
うっとりとしている
その穂先にはキラキラとした
夏の残骸が光ったままだ

僕はそっと目をつむる
葉を生い茂らせる木立を真似て
空を飾る星を背にまとい
このまま地中深く足が根を張り
両腕が天指す梢の
一本の木になれればと思っているんだ

人の多い雑踏の中で
感じている正体の分からない眼差し
その影に潜む暗い気持ちを思うたびに
僕の胸には青白い火花が走るよ
その度に鼻の奥がこげくさくなって
目の奥がちかちかと寂しいよ

怯え続ける心は
すっかりと人といることには力をなくし
誰もいないところへと足を向けるのだ

こんな山里の夕暮れに隠れこんで
誰にも知られないところで
木立になれればいいと思っているんだ