風のささやき

青空を見上げながら

大きく枝を広げた
けやきの大木の下から
秋の高い空を眺めている

いつの間に空は
あんなにも遠くなっていたのだろう
いつの日にかたどり着ける
場所だと思っていたのに

空は僕のことなど
最初から頭になかったのだろう
取り付くしまもなく遠ざかる速さは
時間の速さと同じ

僕の頭の上には
風でひらひらと震える緑の葉
何かを楽しげに語りあう唇のように
笑い声が鈴なりになっている

けやきよ
君はまだまだ諦めきってはいないんだ
いつかは空の高みにたどり着けることを
信じてやまずに
日々その体を伸ばし続ける
枝のしなり幹の逞しさ

あるいは空が低い日などには
空の深みに枝先が
もう届いているのかも知れない

けやきよ
僕も君のように大きくなれると思っていたんだ
青い空の向こうにまでいけると思っていたんだ
君に与えられた時間よりも
僕の生はきっと短く

すっかりと諦めてしまって僕は
けやきの幹に触れるだけ
諦めきった青空への恋文を
けやきに託しながら
届かないものへの憧れにまだ燻りながら

僕の足元には小さな一輪の花
青空へ届けない傷心の
僕には大きな慰めの

せめては足元の美しさに
ますます心を砕こうと