風のささやき

目の中から

もうそれを 映していることはできなくて
目の中から また一つ 僕は
大切だった 風景をとりこぼす

大粒の涙に 閉じ込められた風景は
頬を伝い 風の中に千切られてゆく
―ああ その中には青い空が映る
 夏の激しい 眩しさがある

メリーゴーランドように回れ
僕の めまい まよい うれい
さようなら 僕がたくさんいた時間
何よりも 大切だったはずの
あなたの顔も 取り止めのない
速さで 遠ざかる

僕の目は 病気なのだろうか
次から次へと 大切な風景が
むしりとられる 涙となって流れて行く
まるで 散る落ち葉のように

とりこぼして とりこぼして
大きな穴ぼこの ざるのように
大切なものすべてを とりこぼして

僕を組み立てていた
骨組みが次々と折れる
心があっけなく ひしゃげる
強い風に あらぬ方向に曲げられた
折りたたみの傘のように

僕はもう途方に暮れて
なすすべもなく
今日も 大切だった風景を
目の中に 残しておくことが出来なくて
惜しげもなく とりこぼしている