風のささやき

故郷

僕の故郷には
山があって
(立ち並ぶ木々が
 涼しい木陰を作り
 小さな草花が
 木漏れ日にあたりながら
 育っている山肌には
 早春
 雪が解け出す
 黒い地面を盛り上げて
 蕗の薹が顔を出し
 やがて吹いてくる
 若草色の南風が
 新緑の梢を光らせて渡る
 夏の夕べにはカナカナと
 寂しげに蜩が鳴き
 秋になると木の葉の
 一枚残らず秋に染められ
 凍てつく冬の前を
 燃え尽くそうとする)

小川が流れ
(寂しいほどに澄み切った
 ゆるやかな流れには
 蛙や小さな生き物達が住み
 その清流に映る
 形を崩さない緑の梢を
 魚が時折
 破る音がする
 太陽の光りを
 銀色に反射しながら
 寝苦しくある宵には
 幻想のように
 蛍の群を遊ばせて)

水田がひろがり
(空に誇らしげに
 伸びてゆく稲穂の
 風が頭を揺らして模様を描く
 緑のキャンパスは目の前に広がり
 太陽がしみじみとした
 光りを落とす中に一人
 監視の目をゆるめない
 麦わら帽子の案山子は立って)

神社があって
(木立の幹が作るアーチが
 ひんやりとした影を落とす
 石畳には苔が生えそめ
 人影はなく静かな
 石段をのぼると茅葺きの
 小さな社が見えてくる
 境内からは少し離れた
 古くからある釣り鐘は
 平和の鐘と名前が刻まれ
 その響きは絶えることなく
 清浄な空気の中に漂っている)

人々がいて
自然の中で
泥にまみれて働き
(ああ日に焼けた
 その顔には笑みがあり
 明るい声が飛び交って)

牛がいて
馬がいて
鶏がいて

かわいた草の匂いがして
土の匂いがして
明るい陽射しの匂いがして

耳のそばには
木の葉をならす
軽い調子の
風の音楽があり

道ばたの
小さな地蔵には
赤い布がかけられている
年月に輪郭を穏やかにした
その顔は微笑むように
供えものの花の中に埋もれ

そのそばで
太陽の光を反射した水たまりに
映った空を驚いて
振り仰いでみた
その青さと
無限の広がり・・・・・

(僕らは何かを
 忘れかけてはいまいか)

何もないけど
広場には
子供たちが
楽しげに遊んでいる
小鳥達が
羽を休めて
さえずっている昼間に