風のささやき

眠れる処

眠りの中にも
もう安らぎは忘れ果てた
僕の心臓は
苦し紛れの鼓動を打ち鳴らしている

いつから人は
静かな眠りを失って
夜も昼も絶え間なく押し寄せる苦しみに
身悶えるのだろう

曇り空の砂浜に打ち寄せる
終わり知らない波の繰り返しに
呆然と呆れ尽くすように

僕の体は蝶番のとれかけた
ドアのように軋んでしまった
そのうち腕や足が
僕の体から剥がれて風に
飛ばされるかも知れない

目の中に入り込んでくる
毎日の極彩色の映像に
僕の脳は焦げ付いてしまった
きな臭い思いだけが僕の意識に飛び込んでくる

そんな苦々しい
一日を終わらせるために
僕はいつものこの部屋で
一人暗闇を抱いて汗ばんだ
眠りを貪ろうとする
眠りの中に今日こそは
安らぎがあるかも知れないと
虚しい期待をかけながら

頭の重さに眠れない僕は
窓を開けて夜空を見上げて

空には細い夏の月
そこにも僕が
安らかに眠れるところはない と