風のささやき

沖合いの夜

沖合の夜 コールタールの
水面に溺れる 海は波に人をさらい
もてあそばれる僕らは なめらかな肌の
泳げない 静かな魚
手首には銀色の 月光の手錠をはめ

波に頭を押されて 水面に
息継ぎしようと 口を開いて
もだえる 無為な行為を繰り返す
重たい髪を 海草のようにはりつけて

目をつむり 思い出す 太陽の下の日々
今は息苦しい バレリーナのように
必死に伸ばす 指の先に
ささやかな星の光りが わずかばかりの慰めと

遠い潮流に流されて 力つき
海のもくずとなる 難破船の
木切れのように バラバラにされて
今にも沈みそうな 僕をとり囲む 青い顔

いつからか暗い 海に溺れて 陸も見えない
僕の口に入る海水は 涙と同じ味がして
咳こむ 叫びのかわりに
こんなことをしているのは もう
心から 精一杯だった