風のささやき

野辺にて

野辺には
遅い春を待ちわびていた
草花が色鮮やかに
狂い咲き
けだるい甘さにむせるよう
森の方は
若葉が弾く陽の光りで
明るみ
ー光りのカーテンが波打つように
 時折そこがざわめくのは
 楽しげな風が通るから・・・・・

僕は野苺の赤い実を摘み
口に頬張り
血塗られたような
手を冷たい
小川の水で洗う
ーそのそばには休み無く回る
 小さな水車

遠くには緑の峰々
その上には晴れた空の青
不安げに騒いでいた
飛び立つ野鳥と
ピアノ線のように
研ぎ澄まされた僕の心・・・・・

足跡を残す砂地に
落ちていたのは
小さな蜜蜂の死骸
透明な羽を折り
背中を焼かれたように丸めた
縞模様の体
ーあれはもう
 飛び上がる
 必要もないのだ
 重たい体を
 空中に支え
 目には見えない羽ばたきで
 喘ぎながら・・・・・

僕の口元が
笑いでゆがみ
そうして ああ
空が渦巻くようにゆらめく
風が耳元を
うねりながら流れてゆく
僕は聞く
僕の体が
地面に倒れ込む重たい音を
遠のく意識の底で
すべてが鎮まりかえってゆく・・・・・

ー否 騒いでいたのは
 僕の心だけだったと