風のささやき

忘れ行く日々に

忘れ果てて行くこと
記憶の足跡のついていない
真っ白な遠い明日へと

それが唯一
僕に許されたこの世の務め
潮騒に足を洗うように

僕は繰り返し忘れ行くだろう
朝の訪れとともに
さっきまでの耳元の囁き
夕べに肩を抱かれるたびに
暖かだった唇の感触も

足の指先の白い砂を
なす術もなく泡立つ波に
奪い去られて行くように

口の中にはざらざらとした
砂を噛み締める苦々しさ
味わい
顔を歪めながら

すべては青空の奥に吸い込まれていった
透明な笑い声や甘酸っぱいすすり泣きの
風合いをした余韻のよう

かすかに残るその気配からは
僕の服からこぼれて落ちた
秋のお日様の枯れ草の匂いがして

僕は忘れゆくだろう
日々に投げ込まれるものの多さも
足元にまとわりつく
自分の影さえも
やがて

このまま眠り続けて
遠い明日
一滴の涙と共に
誰もいない海に
目覚めたとしたならば

今日の出来事は
きっと
浜辺に咲く朝顔の
朝のしずくほどに
美しく小さく丸くなって
忘れられているだろう