風のささやき

一日の終りに

今日という日の労働を終えて
農夫が曲がった腰をのばし
遠い家路へと帰ろうとするころ
夜に飛べない
鳥はねぐらへと急ぎ
たそがれ
頬を撫でる赤い風が
雑音だらけだった心を
静かに
僕らからは遠く
茜雲の向こうへと
運び去ってゆく。

山影の間に
沈んで行こうとする太陽は
細い水路に火を流し
炎は水田の岸辺
さざめいている。

色を変えて行く空の下
うねる風に
重たい頭を
重ねあう稲穂の
金の海。

もうすぐ
刈り入れどきが訪れて
その中に取り入れた
太陽や雨のめぐみを
また土に帰すための
種籾は
暗い倉庫の中
静かな冬を眠る。

人家の
柿の木の上には
星が
今日を心に
刻みつけたものたちに
夜の訪れを
告げるために光り
冷たい風に
青白い月が
やがて空には輝く。