風のささやき

土方

「工事中」
の看板の向こう側
赤い夕日に 背中を押されて
一人 地面を掘る土方

彼の服はすり切れて
体には 土がこびりついている
肌からは汗を 目からは大粒の涙を
ぼろりぼろりと こぼし
声もたてずに 泣いている

彼の持つ つるはしは
堅い意志で 鍛えられていて
太い腕の 振り下ろす力で
ダイヤモンドさえも 砕こうとする

仕事を終えて 会社から
ぞろぞろ出てくる 人々は
泥に汚れた そんな彼を嗤い
頭のいかれている 奴だと
役には立たない 奴だと
そうして 夜の街へと
生命をすり減らしに 消えてゆく

しかし彼は 知っているのだ。
そんな立派な人々に 蔑まされながらも
そこには掘るべきものが あることを
土の中深く 堀だされたがっているものが
埋もれていることを

いくつもの明かりが まだともるビルの
土台を築いてきたのは 彼だ
この街並みの 生活を支える
根っこを探してきたのは 彼だ

一人だけの 作業場に
土方が 地面を掘っている
手のひらを 豆だらけに
赤い夕日に押されて
土方が 地面を掘っている
血のような汗を したたらせながら

背広で着飾った 人々に嗤われようとも
しかし彼は 知っているのだ
そこには掘るべきものが あることを
土の中深く 堀だされたがっているものが
埋もれていることを

彼は その声を聞くのだ
そしてその声の主を
掘り当てることが 出来ない日には
人々の嗤いと 自分の無力さとに痛み
ああして時折
声もたてずに 大粒の涙を流すのだ