詩編:寂しい解体
寂しい解体
鏡の中の自分に
渡り廊下の写し鏡の中に映った春の雨と人の声
春の雨が降っているとある日に
ほの暗いバーの片隅で些細な喧嘩
静かな電車の中で突然溢れる悲鳴
声にならない悲鳴で街は理屈 屁理屈
理屈 屁理屈 時には正義ヘッドフォン
みんな何を聞かないようにカマキリ
駅の階段である日
僕を弄ぶことで嗤うパズル
僕をこんな風景の中に僕は何だろう
僕は人波を歩いている夜の街草原の目覚め
山霧を集めた黄色い花の花弁壁
どうしてか体に力が入らない湖底へ
どうしてか体に力が入らないサイレン
サイレンが鳴っている黒い川
黒い夜の川にはコールタールの黒い灰
誰の手による物か言葉
僕はいつでも幸せ
ローズマリーが矢
矢継ぎ早に底無しに
俺は底無しに悲しかったんだ霧散する夜
紫煙に燻る夜の街小さな鞄
駅のベンチの上に水槽の中の目
僕を見続けている砂漠にて
沈むこともなく自らさえ燃えている古ぼけた顔に
随分と古ぼけた顔だ三日月の夜
薄い三日月が空に昇った雨の電波塔
鉄骨の間を雨で滲ませる電波塔都会の片隅で
青白い電灯に 体を縛られ化粧の下の涙
目元に君は 哀しみを滲ませて冷たい雨の街
いつの間にか冷たい雨が退屈な毎日に
マンションの向こうにまた今日も雨降る中で
激しく降り続ける雨よ緑の木陰で
いつの間にか緑のドレスをまとい霧の中の人
今まで笑いあっていたのに混線した夜空
窓辺にもたれ夜の白き花
夜の底に淀む街の隅に溺死
腐りかけた魚の目のような操り人形
僕は操り人形のように去り行く人に
彼女は軽やかな足取りで夕暮れの鞄
今日の出来事の 大方を終えた身悶える日に
人はべっとりと工事現場で
いつの間にか背の高いビルが眠る人
捨てられた猫の毛並みより都会のノイズ
ビルに激しく吐血して夕刻の街で
街は蜃気楼のように不確だった終焉
追い越してゆく 子犬と子供が安酒の朝
僕はまた安酒の匂いの病い
母よ 僕は病んでいる冷たい夜に
存在の不安を 蝋燭のように冷たい夜へ
あなたへとつながる吹き消される者
ただ 吹き消されることを夜の胃袋
長い夜の胃袋を器楽的な夜
丸や直線ある日
小鳥さえも ついばまない都会の公園
わずかばかりのとある日
光届かない群衆の鉄格子
鉄格子の 小さな窓から仮面
血潮にのって寂しい解体
夜にひそかに街で
夜の街に繰り出そうと買い物
僕は靴を買った都会
都会のある日
ビルの屋上から 見下ろす顔
あなたの 肩の上には影
空には夕日が 楕円にゆがみ