風のささやき

花から花へと自由に飛び回る
あなたの顔には蝶のような
軽やかな微笑みがあった

その自由な羽ばたきが
うらやましくて
網を持った子供のように
追いかけたその笑顔
彩りを胸に飾りたかったから

けれど
どこまで追いかけても
追いつけないその蝶は
やがて手の届かないところ

ひらりひらりと
明るい大気の中を
墨色の空に舞い上がる

その鱗粉の舞い散る軌跡だけが
顔の上に金粉のようにふりかかった

虚空に消えてゆく
遠い隔たりに感じた気怠さ
全てを忘れてしまおうと
深い眠りに身を沈める

あれは古い夢のなかの
出来事だったと
忘却をまとわせて琥珀に
閉じ込めてしまうように

ああ しかし
誰が知ろう
憧れの蝶も
見ず知らずの大海の
青い海原に迷い

その翅を
無惨に散らして
逝ったことを