風のささやき

雪が降ってくる
さらさらとした雪が
深い夜の底から
手品のように尽きることなく

人通りのない街角は静かすぎて
冷え冷えとした白銀灯の下
夢を見ている僕なのだろうか

観客のいない舞台
一本のライトに照らされた役者
白い息を吐き 空を見上げて
両手を雪に捧げている無言劇

「これは何かの祝福か
 あるいは不浄なものを
 白く清める空の意志なのか
(ならば僕の体をその下に埋めてくれ)」

モノクロームの世界のなかで
ぶりきの玩具のような
がらんどうの胸に闇が満ちる
頭は霜ふる白い冷気に満たされる

倒れてこのまま
眠ってもいいだろうか
夢と現実とが雪に混ざり合う
足は立っている感覚を失う

とても眠い
冷えてゆく体
雪が降る 白く積もる
雪の下に眠れば紫の唇
まつ毛も凍り
血の気の失せた白い耳に
誰かの温かな手が触れる
明日があるのだろうか

幻なのかも知れない
もともと僕なんて
雪が溶けだすと一緒に
溶けてしまうような