風のささやき

眠る人

捨てられた猫の毛並みより
秩序なく伸びる白い髪と髭の真中
くしゃくしゃになった新聞紙の顔で
電車に眠り続ける人よ

誇らしげに手を振る紙面の写真も
印刷された沢山の活字も
誰かが無責任に残した殴り書きと
まるで区別ができない
真っ黒な汚れになって

ほんとうはどんな希望で
その顔を明るく色づけていたの
風が吹くたびに灰色の紙片は
めくられ引きちぎられて
希望も思い出も消し飛んだ
深い眠りの人よ

どんな残酷な彫刻家が
その岩肌のように硬く冷たい顔に
深い皺を刻みこんだのだろう

一本一本の皺に
労われることのない
労苦が住み着いて
その小言が漏れている

今はただ くぼんだ目を閉じて
眠りだけを慰めに貪る人よ
あなたの心を軽やかにする
言葉の在り方を 僕は知らない