風のささやき

水槽の中の目

僕を見続けている
水槽の中のたくさんの魚たちの目

知るか知らぬかは知らずとも
やがては人の口に運ばれる定めの
生け簀の中の魚たちの窮屈な泳ぎ

昼食時
注文がどんどんと舞い込む厨房は
きっと混乱をしていて
忙しそうだ

僕もその隣の人も
さっきからお預けをくったまま
どれぐらい待たされるのか
見当もつかずに時間をもてあましている

既に食事が届けられた
安堵を浮かべるたくさんの人が
慌ただしく飯をかき込むその中で
見つめ合っている僕の一対の目と
たくさんの魚たちの目

中には傷ついた片目の魚もいて
ジクジクと痛んだままなのだろう
治癒されることのない目は
腐りかけて行く白い花のようで
不快そうに片側を気にしている
残りの目が僕を眼差している

海と比べれば
陸の上の水槽はどんなにか窮屈だろう
鱗と鱗がぶつかり剥がれる音も聞こえそうで

そんな君たちを
胃袋に収めるのは僕ではない
そう胸の中で弁護しつつも
居心地の悪さを感じている
気弱な僕は誰かに八つ当たりもしたくなり
店員を呼んで自分のメニューが
忘れられていないかを確認したりして

その様子を眺めているたくさんの魚の目と
奥の方に潜んでいる片目のその鈍い光の目