風のささやき

霧の中の人

笑いあっていたのに
横をむいてしまえばもう
僕はあなたのことを思ってはいない
僕は見ず知らずの人の髪を触る癖に
気をとられたりしている

あなたに呼びかけられて
僕はあなたの方を向く
いつからあなたはそこにいたのだろうと
僕はいぶかしく思いながら
気持ちのこもらない相槌を打っている

きっと僕らは同じ言葉で通じあってはいない
さも分かり合えたように過ごすけれど
もう分かれてしまえばあなたは
霧の中の人だ
僕らを結びつけるものは何も無くて

白い霧に隠されて
あなたの顔は思い出せない
その声も目の色も
きっと僕に向かってあげられている手も

僕の言葉もあなたの耳には透明な言葉
必死になって呼びかけても
あなたの耳には届くことはなくて

だから僕は冷たく無関心になるだけ
美しい誤解の上に眠り続けるあなたに
小さな失望を重ね続けながら

あなたへの優しき思いは
舌の上に乾かないままあるのに
僕はその言葉を伝える術を知らずに
今日も霧の中のあなたへ口ごもっている