小さな鞄
駅のベンチの上に 置き忘れられた ピンクの小さな鞄が一つ 大好きなヒロインの絵のついた きっと小さな女の子が持っていた 今日の楽しい出来事を たくさん詰め込んで来たはずの 手に取ればその思い出の重さで 思った以上に重く感じられ お日様や青臭い木々の香りも漂うようで いつの間にか見て見ぬ振りを出来なくなって 悪いものを見つけた後悔に 見過ごすこともできずにその小さな鞄 手にオロオロとしている僕は もしかすると 今置き忘れたばかりなのかも知れない あるいは置き忘れたことさえ忘れて ぐっすりと母親の胸に 眠っているのかも知れない それとも電車の中で 大粒の涙をこぼしているのかも知れない 忘れられて行く今日の出来事も 子供の胸には新鮮な驚きと喜び その鮮やかな印象がぎっしりと詰まった 鞄の重さを手のひらに感じながら 誰彼となく小さな鞄の主を探し 声をかけて届けたくなる 慌てている僕の気持ち