風のささやき

器楽的な夜

丸や直線
三角や四角の幾何学模様が
描き出す高層建築物は
人を押しつぶすすり鉢

手の上に錯綜する
ユングの元型や
ギリシャの哲学
相対性理論が描き出す生命線を
見る易者の予言する明日は
誰にも もう分からない

密売人が魂を売買する街角の
暗がりに羽ばたく少女を
乗せるエレベーターが
夜空に高速で吸い込まれ星になる

時計台の鐘の音は
街に滅びを告げるよう
ショーウインドーのマネキンの見上げる
大画面の映像に移り変わる
世界のニュースは
花火のように爆ぜ続ける

露天商が売る水たばこの道具は
心を煙にまき
売り言葉に変わる信号に
青いギターをかき鳴らす
震える六本の弦と
張り上げる声がしわがれて
その訴えは誰も聞かない独り言

酔っぱらいの笑い声は
ビルの合間のご機嫌なこだま
もてはやすネオンサインが
点滅する都会の夜は
たくさんのくだをまき散らし垂れ流し
ブリキの玩具の
でたらめなオーケストラのように
頭の芯に器楽的な金属音を鳴らし続ける