風のささやき

雨降る街で

いつの間にか 肌に冷たい雨が降っている
散歩好きの子犬も 早く家に帰りたがる始末
街路樹は言葉を忘れた 老人の群れのように青白い

灰色の空の下で しっとりと濡れているビルの谷間に
青い傘を差した あなたは一人佇み
少し青ざめた唇をして 雨の染みる茶色の革靴

いつからあなたは そこに立っているのだろう
時折辺りに 投げる視線は
あなたの待ち人に 送ろうとするものか
それとも街中に 落としてきた忘れ物
捜し出そうと しているのか

雨雲は黒い犬の 毛並みのように
あなたの背中に 重く覆い被さってくる
あなたの肩を 一層小さくする冷たい雨
あなたの長い髪も 程なく濡れてしまいそうだ

いつしか この冷たい風景に
あなたが 塗りこめられてしまいそうで
他人事なのに 不安に思っている僕は
あなたから 目が離せないでいる

あなたは 何時になったら
そこから 立ち去ることができるのだろう

あなたの 待ちわびる人は
ほんとうに 現れるのだろうか
あなたの 忘れたものは
ほんとうに 捜せるのだろうか

いつしか僕まで 足を釘付けにされている
あなたの姿を 見失わないようにと
必死に 目を細めている