風のささやき

あなたの 肩の上にまた
青ざめた 顔が浮かぶ
途方に暮れて どうしたらいいのかも
分からなくなった顔だ

「もう止めたらいいのに」と
何度も小さく つぶやいているのに
あなたは 出ていってしまう
その切ない声に 聞く耳をもたず

心のざわめくまま
するりと身軽に 回転ドアを抜けて
灯りと人が入り乱れる 夜の喧噪の中へ
心に 炎を点す 刺激を求めて

そうしてぐったりと
あなたはまた ねぐらに帰る 疲れている
いつの間にか 頭の中に詰め込んだ
止まらないおしゃべり
二日酔いのような 頭痛
暗闇を泳ぐ目線は 視点も定まらずに
刺々しい心 自分に刺さり 不機嫌になる

そんな時には また
寂しそうに 目線を落とす
青白い顔が あなたの肩に 浮かぶのに
あなたは 何も気が付かないふりで
心を覆い隠している
悪夢のしみついてしまった 包帯で

けれど疼きは やがて傷口を開き
痛みを麻痺させる 薬をもとめて
あなたは 出会うこともない
人の間を訪ね歩くのだ

やがて腐り始める あなたの心に
青い干し柿のように
しおれた寂しげな顔は
消え失せて もう二度と
肩に ほのかにも 浮かぶこともなく

あなたは本当に あなたを失ってしまう
いつしか 荷車を運ぶ
牛のように 血走る寂しい目をして
街の片隅に 涎を垂らし
モーと鳴きながら 暮らすばかりで