風のささやき

十三回忌に

母が先に逝ったのはとある冬の朝のこと
その知らせを告げる電話は
僕が仙台に旅立つ少し前にけたたましく鳴った
そうして勢い駆けつけた
まだほんのりと体温を残した母の体
その終わりを証明する一枚の白い死亡通知
「ありがとう」と「ごめんなさい」と
その二つの言葉だけが頭を巡り
体は力が抜けてしびれたままだった

すべては時の流れの中に
忘れるばかりの出来事だと思っていたのに
思い出す事が増えていた13回忌を迎えた年

調子に乗りすぎて怒られてばかりの子供の
成長の重さおぶった背中に感じている毎日に
幼い頃の記憶が呼び戻される
その記憶にはいつでも寄り添っている母の面影
そうしてその先の会話を亡き母と交わす

確かに時間は過ぎたのだと実感はある
お焼香を一緒に出来るようになった子供と
読経の間中泣き騒いでいる赤子と
一つの屋根の下に暮らすようになり
それを見守っている母の遺影が飾られて

年を重ねた分の神妙な面持ちをして
手を重ね合わせる僕はいつしか自分と子供の生を
そうして母親の気持ちを重ね合わせ暮らしている
人の親であることの喜びと不安と息苦しさと
幾つもの生が重なり縺れ合う流れの自分は
ようやく亡き母と語り合う資格ができたのだろうか

お線香の煙が立ち上り消えて行く
さっきまで側にいたはずの母は
少しの間僕らの法要にお付き合いをして
もう空に帰ろうとするのだろうか

そろそろ秋の気配のする夏休みの終わり
日差しが弱まり風は爽やかに感じられ
集まった子供たちは何か楽しい出来ごとのようにはしゃぎ
それは楽しいことが好きだった母の望みでもあり

人の世にそぐわない夢見を諦められない自分に
抱き上げられることを望む赤子の
真っ直ぐな瞳に見つめられて
僕はまだまだ新しい気持ちへと踏み出して行きます
母よあなたの面影を道標として
子供たちに背中を押されながら
願わくは誰よりも澄み切った心持で