風のささやき

忘れ行くもの

僕の背中に春の夕日が
優しく寄り添っていた

肩口から両手を垂らした
まるで小さな子どもを
背負っているかのように
ほんとうに暖かだった

その温もり

握りしめていた指先からは
それでも時間が
零れ落ちることを感じていた

あなたの瞳には確かに僕が
映ってはいたのに
砂時計のように微かに感じていた

その寂しさ

夜風が僕の窓辺へと残した
そのため息の訳を知る由もなく

忘れないでねという
沢山のものたちを
忘れ続けて行く毎日の僕がいて

その後ろ姿の消えてしまわないうちに
刻み込もうとつづる言葉は
消え行くものたちの形見

僕の歌

ほんの僅かなものしか
すくい取ることができない無力の
透明な涙の絵筆でつづる

僕の心の絵模様

忘れたくないものたちの姿を
残しておきたくて
磨く言葉のプリズムからは

青白い月光の雫
その冷たくしなやかな肌触りが
僕の顔に触れ瞳には点滴を差し

また今夜
歌われずに忘れられて行くものがあると
僕は告げられている