風のささやき

黒い灰

誰の手による物か
その夜にはすべてを寂しくさせる
黒い灰が一頻りまかれた
たくさんの汚れた苦しみを
業火にくべた燃殻は
闇を一層濃い物にして
健やかに眠りに就いた夢も色を失った

闇に同化してしまった僕を
誰かに救い出して欲しかった
三日月も熱病にかかり
青く病んだ月明かりの下では
道行く人たちの表情は奪われた

人の笑いは虚ろに響く耳鳴り
誘蛾灯に群がり焼かれる
焦げくさい匂いが鼻の奥の残り香
何も見えない暗闇に
どれだけか頭をうちつけて

その恐怖の予感に
逃げ出したい僕の足は動かない
悲鳴も喉の奥に押し込まれたままで

胸の中には真っ赤に熱せられた
太い鉄棒が焼け付く
それを取り出したくて
この指先を立てて胸を突き破りたくて
一思いに僕を生かす心臓も握りつぶして

せめて誰か僕の耳元で
優しい物語を語ってはくれないか
大人になってからの聞くお伽噺は
あまりにも残酷な話しばかりで