風のささやき

緑の木陰で

いつの間にか緑のドレスをまとい
すっかりと色を濃くする木陰で
餌を貰う犬の楽しいお昼時

緑の芝生のランチョンマット
口から伸びる長い舌は
彫刻のされた銀のスプーン代わり
尻尾を振り振り待つ時間も
楽しい食事の前菜のようだ

木漏れ陽の下で
食べるためだけに使われる牙は
すっかりと鋭さをなくし
宝石のようにキラキラと光っている

お前の食べる様子
嬉しそうに見守る少女
爽やかな風は快いバックミュージック
すべてのものがお前の平和な食事を祝福している

毎日のあたりまえの繰り返し
それがどんなに幸せなことなのか
ついぞお前が知る余地などないだろうけど

お前よりもお腹を空かし
お前よりも食べ物が少ない人のことを
遠く離れた大地にいる
お前よりも年若い
もしかするとそれは
子供だったりすることを
僕は知っていながらに

さっきまでカフェで
ビールなどを飲みながら
ほろ酔い加減で
偶然に見た犬の食事の美しさで
感傷を覚えているから

夏の空よ
果てしなく広がるお前の下で
何て僕はちっぽけで
不誠実なんだろう

舞い上がったビニールの
白い買物袋と僕と
区別さえつかないんじゃないか

僕はいつも思っているばかりだ
思うことを手玉に取って
すっかりと安心をしきって