風のささやき

街で

夜の街に繰り出そうと
駅から吐き出される人の群れを
横切り斜めに歩く
人の切れ目は何処にあるのだろう
歩きにくさにはいつまでも慣れないままで

夜遅くまで灯りの灯る高層ビル群
どれだけの人がまだ忙しく働いている
何かを守ろうとして

さっきまでは誰かと一緒だった
細い肩の感触はまだ手に
微かに残っているけれど
それがどんな人だったかは
もう忘れてしまっている

よく見かける顔だったと
もう僕は気にもとめずに歩いてゆけば
高速道路が宙を曲がりくねって走る
街によくある軽い記憶喪失
都合の悪いこと忘れてしまえるという

ラジオからは その人の声が聞こえた気がして
何かを一生懸命に訴えようと
ああ彼女は僕の重たい気持ちを
衣装にして被せた彼女は
その重さに疲れて闇の中に紛れ込んでしまった
軽やかな足取りで
ホテルの回転ドアをくるりくるりと
通り抜けて笑っていた
口元の赤い口紅を思い出す

透き通ったガラス越しの
テーブルに座っている恋人たちを見て
その飴細工のような頼りなさに
うすら寒さを感じる頃

立ち止まる交差点で
僕は思う何処に僕の落ち着ける
椅子があるのだろうかと