風のささやき

夏の花火に

静かに空を見上げたままの たくさんの瞳
その水晶体には 夏の夜空を飾る
花火が咲いては 消えて行く

空に花火が 上る音のするたびに
小さな期待に 声を上げる子供たちの
楽しげに 笑った顔
その印象は 夏休みの宿題の
絵日記の一頁 埋めることになるのだろうか
―その頁もやがては 忘れられて行き

歩くたびに目に付く 涼しげな浴衣姿は
今日の日の仕立物
人波の間に流れている
冷たさは 感じないものとして
手にした団扇に 多くの風を呼び寄せている

人々の息を呑む 静かな期待
一心に 背負って
暗闇に 手を伸ばす花火
勢いよく 円心を広げ
やがては死の匂い漂う 際に触れては
驚いたように 散り散りと消える
その姿は

どこか無理をしているようで
苦しげに笑う 生贄のようで
あなたの横顔を 僕はそっとのぞき見る
あなたの顔は 花火のほのかな明りに
照らし出されて 何かに魅せられているようで

それで僕は「きれいな花火だね」などと
不自然に 饒舌になって
消え行くものの 寂しい余韻を
打ち消すのに 一人必死になっている

夏の夜の花火は どこか寂しく
もしかすると皆 気分紛らわすため
はしゃいだ振り してるのかも知れない