風のささやき

夕刻の街で

街は蜃気楼のように不確だった
歩いている自分も幻だった
踏みしめる道に足がのめり込み
消えてしまいそうだった

誰かの馬鹿笑いが耳に響いた
邪魔だと主張する
暴力的なクラクションが鳴り続けた
汚れた空気は吸いたい放題で
煤だらけの血潮だった

横断歩道は人を捕らえる罠だった
だからみんなが急いで渡った
極楽鳥のような色彩の服を着て
人は鋭利なナイフを隠し持っていた

夕刻 あなたと座るベンチ
高層ビルの赤い窓が
垂直の波のように襲いかかる
その波に溺れてしまう僕の
声はちゃんとあなたに
届いているのだろうか

あなたの瞳には
もう赤く燃え尽きてしまった僕は
夢の中の芒のように
風が遊ぶあなたの髪に触れない

曼珠沙華色の赤い風が
唇をふさいで
言葉をなくした舌は役割をなくして

梢の向こう
輝き始める一番星の光に
頭から貫かれて
首をうなだれる
物言えぬ操り人形の
寂しい諦めのままに
大切なあなたを
不機嫌につまらなくさせていた