風のささやき

雨の電波塔

鉄骨の間を雨で滲ませる電波塔
白くかすれた姿は寄木細工のようにか細く
今にも折れてしまいそうにも見え
そんな体で街中に電波を送り続けている
しっとりと濡れた電波塔

誰に一体届けようとする電波なのだろう
そうして一体誰に届いている電波なのだろう

ビルの巨大なスクリーンには
明るい話題を機関銃のように話し続けるコメンテーターの顔
どんな希望的な観測がその顔を明るくしているのだろう

耳障りな言葉の洪水が耳に流れ込んでくる
その誇らしげに甲高い声は鳴り止まない頭痛の種

通りを歩く人たちはその言葉への術を知っている
自分の言葉の大きさでその言葉を打ち消すこと
会話にはならない独り言
まるで小さな電波塔のように

その術を知らない人は一人家に閉じこもり
頭に浸み込もうとする乱雑な言葉から身を守るばかりで

僕も送り出される電波にはもう辟易として
無関心を装いながらも不機嫌な顔をしている
声にならない僕の胸の内の言葉も
いつかその電波と混線を始め
不明瞭な言葉が僕の口から漏れてくる

いつからかそこに立ち続けることしかできなくなって
終わる当てのない電波を送り続ける電波塔
雨なのか涙なのか濡れている体はやがて錆びて
朦朧としたまま電波を送り続ける電波塔