風のささやき

砂漠にて

沈むこともなく自らさえ燃えている
太陽の支配する砂漠に吹く熱風は
何者の肌も逃さずに焼き
すべてのものから焦げた烙印の匂いがする

隠すものもすべて失くして白い骨が
砂丘に十字の目印をつける
こちらに来てはいけないのだと
警告を発するかのように

その空の下で肌を隠すこともなく
褐色の笑顔を浮かべて彷徨っている人
熱にうなされてとけ出した脳を取りこぼしながら
朦朧とした目が黄色く濁っている

口にはうわ言のように
繰り返すオアシスの話
青い水も日陰作る生い茂った緑も
そこにはあるのだと
そこに自分は当然にも行き着けるのだと

頭上の狂乱じみた太陽も
焼け焦げる自分の肌の匂いも
視界を失って行く目も
すべてが自分の思い描いた通りだと

その足はやがて干からび力を無くし
喉の奥は焼けるような暑さで
鼓膜も燃え上がり何も聞こえない耳の奥には
自分の断末魔さえもう届かずに

力尽き倒れて行くその体は
砂の嵐に隠されてしまい
またそこには何もなかったかのように
真昼の太陽のみが支配する世界があって

この場所には死の陰影すら
入り込む余地をもらえない
祈りの声も干からびて芥となって

人は幻のオアシスに引かれながら
次々にこの砂漠の餌食となるのだ
どんどんとこの世を侵食していく