風のささやき

都会

都会の
正体のない生活は
僕の魂を暗くする

○

まるっきり
見えなくなるまでに
心を覆い隠して
寂しい顔をした都会が
ケラケラと顔の上で
せせら笑っている

○

都会では時間が
ぎこちなく流れる
僕らを奇形の
化け物に変えてしまう

○

人々の間には
ガラスの壁がはられている

○

鏡に向かって
話しかけているようだ
人々といても

○

一方的に
がなり立てるテレビ
街中に
しみついた雑音
僕の耳にも
止まない騒音

○

知らない人々の間に
宙ぶらりんにされて
無表情な
視線を浴びている

○

悪い夢を
見ているんじゃないか
僕は

○

都会に住めば心色あせ
病を病と
感じなくなるまでに
やんでいる

○

心から離れた
空虚な言葉が
都会を覆って
薄暗い不信感を
幾層にも心に積んで行く

○

ほら
後ろから子供が
「お母さん、お母さん」と
あなたの手を求めて
呼んでいるじゃないか

○

顔がある
その向こうにも顔がある

○

昨日を過ぎて今日に来る
来てみたところで同じ
心を楽しませはしない
今日へ

○

灰色の街並みは
来る日も来る日も
変わり続ける
あわただしく
いらだたしげに

○

刺激物にしか
反応しなくなる
微生物のような心だ

○

今朝の新聞
死者五名

○

何事にも
無関心でいられる
心だ

○

逃げ去る場所がない
めまぐるしい感覚が
ふりかかる
ビルの谷間のベンチに
痛む頭を抱えて
うずくまる
彫刻を見るよう
誰も気にしない

○

どこからか紛れ込んだ
小さな蟻が
あわてふためいて
めくら滅法に
ホテルのロビーの
白い大理石を滑る
誰も気にしない
いつか踏まれそうで

○

あなたは逃げる
電話ボックスの棺桶

○

脳裏の奥から
ひどく寂しい風景を
ひきだしてきて
凍り付くような
憤りに震えている

○

夕暮れ
鉄筋コンクリートのビルに
ハサミを入れられたような夕日
風景が血を流しているようだ

○

誇りに汚れた側面は
夕日に照らされ
電車がホームに入ってくる
疲れた人々を吐き出して

○

夜の街は
まるで花火のようだ

○

街の明かりに
目をやられてしまい
都会の真ん中で一人
暗闇の中を歩いている

○

目にうるさい
仮装行列の集団
素顔の方が
もっと醜いのに

○

眺めてみるのが
こわいんだ

○

重く疲れた心を背負った
不機嫌な顔の列が
繋がれて歩く
囚われ人のように
都会の風景を
殺風景に通って行く