風のささやき

退屈な毎日に

マンションの向こうにまた今日も
夕日が落ちて一日が暮れる

あの夕日はどこへ逃げ去ったのだろう
足早にマンションの一室に隠れこんで
古ぼけた皿の風景にでも
成りすましているのだろうか

僕はまた今日も
無駄なことを考えながら
歩き慣れたこの道を帰る

見慣れた赤いポストもいつものままに
バスを待つ人の顔も同じで
花屋の軒先の花束が
どこかお疲れ気味なのも決まりきったように

そうしてきっと明日もその次の日も
トボトボトボトボと
歩く僕の姿にも変わりはないと

雨は降るかも知れないが
風が吹くかも知れないが
繰り返す波のような単調な毎日が
僕の脳裏を
雨ざらしの鉄くずのように
赤く錆付かせるから

僕の口はいつからか
鈍い低音の響きしか
発することができなくなっている
僕自身でさえその音には
ゾッとするぐらいだが

いつから僕は
こんな退屈というあやかしに
取り込まれて生きているのだろう
煙草を燻らせるように
怠慢を口にしながら
青空を眺める目は
もう涙でジュクジュクと窪み

僕の毎日はもう
退屈という波の上で揺られる
眩暈のようなもので

こんな毎日にもう僕は
すべての意志も思考も諦めるだろう
退屈の奥底で舌なめずりをしている死が
すぐに吐き出す味のないガムのようになって