風のささやき

空に溶け出す 夕日は楕円に歪み
足元から 伸びて行く影は
ゴムのように長く
足枷のように重い

地面の底からコンコンと湧く
不吉な染みの様に
人々の背中にはりついて
何処までも離れない

雑踏の中では 逃げ場をなくし
足跡だらけになって
声にならない悲鳴を上げる
影と影とが入り乱れ
人の形をなくし 奇妙な姿となって

手や足を 何本もはやし
もはや誰とも分からない首を
沢山 並べて
寂しい昆虫の 触手のように
落ち着きなく 揺れている

かき回された脳に
浮かぶ考えは いつでも船酔い
思い定まらずに 腹の底から気分が悪くて

それはいつしか都会の 重い気分となって
街の地面を 影から影へとひろがり
人々の胸へ 流れ込んで行く

いつしか 寝苦しい悪夢へと
その顔を変えて
起きた時の 鏡の中の自分は
表情のない 黒い影のようだった

いつか僕は
体を乗っ取られる予感でいる
影に首を絞められる夢
何も感じないまま
黒い影に心を奪われる予感で