風のささやき

夕暮れる春の日に

子供の笑い声が
どこかから響いている
おなかが捩れるぐらいに
おかしいのだろうか
その声がいつまでも
僕の耳には響いて消えない

春の風が魔法をかけて
微笑みだした花の数々を
一つ一つ眺めだしたら
時間がとても足りないから
後ろ髪引かれながら歩く
春の夕暮れ時の小道

振り返れば背後には
桜吹雪の燃え立つような
淡い夕日の色合いが
小さな背中を染め上げようと
僕の足並みより
ゆっくりと迫ってくる

僕の真上にはまだ
明るい昼間の印象を残す雲が
帰ろうか帰るまいか
迷っているようで漂ったまま

高いところを走る
五線譜のような電線にも
光に溢れた風がまだ留まっているらしい
その風に音色をつけている
小さな雀の四分音符

通りすぎる家々の窓は開かれ
小さな羽ばたきのように
外からの者を招いている
白いレースのカーテンさえも
すっかりと無防備になって
昼間からの戯れに飽きないままに

いつの間にか空の深みには
青白く輝く一番星
空のどこにあんな光がひそんでいたのか
あるいは僕の目には映らない
多くのものがまだ空の奥底に
潜んでいるのかもしれない

桜は一足ごとに散り急ぐように
花びらを風に渡す仕事を止めないまま
それを飲み込む闇がもう
花壇の中でも大きくなっている
僕らが目印にしていた
銭湯の高い煙突も
いつしか空に紛れてしまい

こんな穏やかな春の夕暮れ時なのに
うっとうしい寂しさを
振り払うことができない
僕は
こんな穏やかなひとときでさえ
留まる術をもたない速さに