風のささやき

母の軌跡

瞳 静かに閉じて 息をとめた
あなたはあれから どこを歩いていますか
生の終わりに身を包んだ 白装束の旅姿で
もうすっかりと 生身の重さからは解き放たれて

あなたのいる宇宙(そら)には 小さな星屑が
かすみ草のように 輝いていますか
花の好きだったあなたは きっと宇宙の花の
一つ一つ すべて覚えようと
欲張っているのではと 考えると
今は少し可笑しくさえ 思えるのですが

時折は あなたのことを
夢見て 悲しく目覚める
誰の物音もしない 夜更け時
僕の送る 子供のような音信が
あなたの耳にも 届けられる時がありますか

あなたが いなくなってからというもの
生は 深みを増すばかり
時折はその底なしの 深遠に怖くなる
相変わらずの 臆病な僕を
あなたは どこからか見守ってくれていますか

あなたが たった一つ
この世から 携えて行ったもの
瞳の奥の 生きられた時間の面影
それは歩き疲れる あなたの足を
突き進めるほどの力を 今も持ち合わせていますか

あなたの歩みは 一筋の銀の道をつくり
夜空に 輝き続けている
いつしか 僕の生の終わりには
僕が その後に続けるようにと

あなたは僕が 追いつこうとする遅い歩み
道草をして 待っていてくれますか
最後に見た 瞳の穏やかさ失うことをなく
僕のがむしゃらだった生を 優しく肯って

母よ あなたは
あれから どこを歩いていますか
永遠に 物言わなくなった
あなたとの会話に 僕は力づけられています