風のささやき

底無しに

俺は底無しに悲しかったんだ
まるで世の中全体が
青い海の底に沈んでしまったように
俺の立っている足元は
一瞬で崩れ去ってしまったんだ

涙に濡らされた人の群れが通る
髪も服もびしょ濡れで
涙に翳す傘を持たない
誰も彼もが苦しげな様子で
足元を眺めることばかりに懸命で

俺は急に人形になったように
ぎこちなく体が感じられたのだ
総てが俺の意志では統制の取れない
バラバラな肢体の動き

俺の後ろでは誰かが俺の口を動かして
心にもない台詞を吐かせようとする
だから意地になって俺は
口を噤もうとしたのだ

俺は母親が不憫に思えた
こんな子供に
育ててしまった悔いを胸にする
その涙は俺の胸の祭壇に飾り

俺は底無しに憂鬱だったんだ
これからのどれだけか長い道のりに
この苦々しい心を伴侶に歩み続ける
その長さに暗澹として

廃墟のようなビルの群に吸い込まれて
身体も心も蝕まれて行く
俺は街の養分となるために生まれてきたのか

夜空の月も星も何の力もない飾り物
俺はもう何百年も眠りたかった
この身体が腐り果てて
俺の体の上が羊歯で一杯になるまで