風のささやき

ヘッドフォン

みんな何を聞かないようにしているのだろう
ヘッドフォンで耳を閉ざして
街は雑然とした物音で溢れているから
それが耳に入るとひどく青ざめて疲れてしまう

混みあった電車
肩の傍で聞く誰かのため息
時には畜生とつぶやき
何かに怒った舌打ちにも
寒気だつ身体
独り言だと分かってはいても

言い争いの声も
本当は聞こえている
駅についたとのアナウンスは
ちゃんと気が付き降りるから
けれど聞きたくはなくて知らんふりをする

諍いは傍から見れば本当につまらないことで
けれど怒りに火をつけて
必要以上に相手を
傷つけないと気が済まなくなっていて
その暴力的な言葉がどれだけ
僕の心に突き刺さるかは
きっとお構いなしだろうけれど

聞きたくもない音楽を押しつけてくる大画面
楽しげに踊り狂う人が映し出されて
嘘だ
タイヤがブレーキを踏んで軋む音
係わりの無い人たちが係わりの無い人の話題で
騒めいている交差点

音の礫に狙い撃ちされているようで
せめてこの耳は嫌悪感は覚えない
音の粒で耳栓代わりに塞いでしまおうと

それでもきっと聞こえてくる
本当は一番聞きたくはない
自分の心の声

こんな自分でいいのかと
叱咤激励をする

お前も知っているだろうと
言い返している
誰にも音が漏れないように
その声を聞かないようにと
僕の隣で誰かがヘッドフォンをする