駅の階段で
踏みつけられていたカマキリ
朝のラッシュ時
沢山の足が上り下りする
怖かっただろうな
無造作に踏み込んで来る大きな足が
休むことなく体の上に下りてきて
混乱しながら逃げていたのだろうな
何処へ逃げればいいのかさえも
皆目見当もつかないままに
絶望的な気持ちで
どれぐらい逃げ回っていたのだろうか
それは体も心も芯から疲れさせる
もうどうでもいい気持になって
死んでしまった方が楽だという思いで一杯で
踏み下ろされた足の下に
その身を捧げた
急ぎ足にはその悲鳴さえ
届かなかったのではないか
踏みつぶされて平面になった体は
まるで緑色の鮮やかな
シールのようにも見えてギョッとした
あまりにも似つかわしくない物が
そこに貼りついていたから
忙しい人たちは
止まることの無い行進
電車から吐き出されて後から後から
押してくる人に押し上げられて
改札を抜けて降りてくる人たちに
背中を押されて押し下げられて
誰もかれもが暗い顔をして
その顔をそっと覗き見れば胸を衝かれて
背中にはいつも
突き立てられた冷たい物を感じている
切羽詰まった顔をして
踏みつぶされているのは
平面に引き延ばされたカマキリだけか
一匹の虫の死を感じている余裕もない
足並みの行進に踏みつぶされて行くのは