風のささやき

寂しい解体

夜にひそかに
人は寂しく解体される

無防備な溜息を一つ
それから体を束ねていた
自分なりの正義の糸を引き抜くと
床の上で手足はバラバラに解けて
もう体に力をこめて保つ必要もない
1LDKの暗い部屋は
その隠し場所

座りの悪い首を食卓におく
カーテンを開けた部屋を
ピンクの満月がのぞいている
その月影に照らされた
頭の蓋を外せば
今日も雑多な映像が
どこをどうつなげれば
僕の記憶になるのか定かではなくて
せめてもの目印に一本の赤い薔薇でも
飾っておけば良かった

夜更けになっても耳に繰り返す
話していたい人たちの声
蚊の羽音のように煩いだけの言葉が
飛び回って眠れない

それは僕の独り言なのか
脳を蝕む誰かの声なのか
知らぬうちに僕も
蛇のように赤い舌を伸ばして
毒のある言葉を
街に吐きつけてはいないだろうか

夜の風は街角中の吐息を
かき集めたように湿っている
涙の塩辛さも少し混じっている
水気を失って干からびた心はもう用なしで
滑り落ちて行くダストシュートの
底のないチューブ
爪を立てる痛みでその落下止めよと
心だけが騒いでいるけれど

鉄の重い蓋は閉じられた
もう明かりも見えない
ただ滑り落ちて行くだけだ
諦めにまぶたを重く閉ざす
それが毎日の僕の眠り

朝に起きてバラバラの体
慌てて組み上げれば昨日とは違う
馴染まぬ体で
ぎこちなく動き出す僕だ