風のささやき

暗闇で

コツコツと 窓を叩く音
どこかで誰かが 泣いていると
静かな夜の風が 僕に告げにくる

それは一体 どこの誰と
窓を開いて 尋ねると
「沢山」という 風の声

沢山の 涙の間を渡り歩いて来たから
お前は どこかしっとりと濡れているんだ
それで泣いていない 僕のところに辿り着いて
ようやくほっとして ボソリと言葉を零したんだ

けれど 僕だって
たまたま 泣いていなかっただけだから
僕だって知っているよ

暗闇に一人 寂しさと向き合う心細さ
誰かが肩に手を置いて 慰めの言葉をかけてくれればと
思う自分の 心の弱さに
また悔しくて 涙が流れてくることを

涙の向こうには 笑顔があると
きっとそれは 慰めの言葉
涙の向こうにも 涙が在って
涙の中でも 笑っていられる強さ
やがて 身に着けるのだと

悲しみがない生は きっとない
人の心の幾らかは 悲しみで形作られているのだから

涙を尽くしてはいない 僕の言うことだから
あまり当てにはならない 憶測だろうけれど と

話している 僕の独り言には
もう飽きたよと 言うように
風がそろそろと 動きだす

それに合せて ベランダの植木も
サワサワと 鳴り出して
「皆に元気でと」と 僕は風に託して