とある夜に
苦い煙草の煙の臭いに 紫の燻製となった風景からは 燻された涙の匂いのする 今晩もどこかでは屠殺場の呻き 闇の中での殺戮に 布団を被って人は誰も気がつかない 茶色に濁った目が怯え見る血走った日常 薬を塗った傷跡は癒える前に腐る 揉みくちゃの心臓は出鱈目な鼓動を刻む 錆の味わいをしている舌が 壊れたラジオの雑音のように 弾き出す言葉の鉛玉 その被弾者の血は青だ 昆虫が群れて舐めに来る 眠れない手は天井に差し出され きりきりとした歯軋りが健康な歯を蝕んでいる 通りには少女の亡霊の後ろから つむじ風のような高い笑い声が追いかける 四角に切り取られた窓辺には 赤い三日月が飾られて こんな夜に君のことを 思いながら花瓶に一輪の 赤い花を差した僕の血飛沫は 携帯電話の奥に霧散した