風のささやき

混線した夜空

窓辺にもたれて
僕はあなたに電話をかけている
耳に当てる小さな携帯が
僕とあなたとを結ぶ道具
その軽さがとても心もとなくて

おずおずとした僕の言葉は
途切れ途切れに夏の空を渡り
あなたの耳元にぎこちなく届けられる

そうしてあなたの声は
星屑の合間を抜けて来るからか
輪郭を削り取られ
淡く遠くに聞こえている

あなたの声をしっかりと聞こうと
耳をすませる僕の電話には
あなたの声に混ざる誰か見ず知らぬ人の声

男か女か
老いているのか若いのかさえ分からぬが
確かに僕には聞こえている小さな声
その人にも僕の声が届いているとしたら

今この時間に二人だけ
結ばれているはずの僕とあなたと

けれど夏の夜空にはつながりあう何万という言葉
その言葉がいつしか
蜘蛛の糸のように絡み合い混線し
知らない二人が会話を続けているとしたら

僕の声があなたに届かなかったとして
何の不思議もないことだと思え
話しかける自分の声が
冷たく空虚になることに気がついている

僕はやりきれなくなり
あなたに「おやすみ」を告げて
会話を終わらせるために電話を切る
僕が枕元に置く携帯電話

けれどあなたがまだ誰かと
話を続けたままだったらと
僕は疑いをもって眠れない夜の寝床を過ごす
さっきまで僕は誰と話をしていたのだろうと

人々が寝静まる深夜にも
夜空の混線は続き
その混線はそうして
僕の頭も犯し始めているらしい
電話もしていないのに
僕は誰かにつながれて
意味不明な会話を強要されている