風のささやき

暗闇で

誰かが どこかで泣いている声が聞こえたと
夜の静かな風が 僕に告げにくる
どんな思いが 胸の中から溢れて
涙に変わったのだろう

けれどそんな出来事は 日常茶飯事なんだと
夜の風は 僕の耳元にうそぶき
面を伏せた 僕の横顔を
決まり悪そうに 眺めながら
小さな部屋の窓から 急ぎ足で逃げて行く

暗闇に一人は 冷たくて寂しい
涙に濡れているのは とりとめもなく苦しい
誰にも知られない涙は やるかたない と
夜風が伝えた言葉に 動揺を続ける僕は

夜の暗闇の中に 少し長い間
目を覚まし過ぎて いるのかもしれない
いつの間にか 人の心の痛みや不安とかに
過敏に 成りすぎているから

僕は無力だ 僕は嘆くことしかしらない
僕は嘆きを 力に変える術を知らない
僕はすべてを 見て見ぬ振りをする
そうして そんな自分に開き直ってさえいる

夜のほとりで
こうして 時々は思い悩む
日々を重ねることが せめてもの償いと

僕は思い描いてみる
夜風が伝えた 涙の消えていく先について
それは きっと 一つの大きな海のように
人々の涙が 流れ着き 一つになる場所だと

その海は すべての悲しみの訳を語る
優しき面影の人の 両の手のひらの窪みにあって
淡い太陽に 青い流砂が波立つようだと
風はその水面に 静けさの墓標を立てて吹き・・・・・

僕はまた 無力の思いに苛まれるだけ
夜風よ何故 悪戯に 僕の窓辺に
悲しい知らせを口に含んで 立ち寄ったのか

誰かがどこかで泣いている その悲しみを
優しく受け止めてくれる面影を
僕はまた思い 憧れている