風のささやき

都会の片隅で

青白い電灯に 体を縛られ
身悶えた肢体 暗闇に浮かび上がらせる木立
いつから君は そんな光の鎖に縛り付けられて
夜に隠したい姿 さらけ出すようになったの
悪いことをした 罰を受けているように

雪のような青白い電灯は 君の涙のように冷たい
静かに眠ることさえ奪われて 夢見ることもできなくなって
街の喧騒に一人 骨ばって見える枝の合間からは
残酷なまでに 無関心な白い月の照り返し

ほっと一息 ため息をつくために
誰知らぬところを 歩いていたら
ここにも 痛々しい犠牲者を見つけたよ
逃げ場所を失う僕の体に 悪寒のように流れ出す
黒いコールタールのような 濃厚な苦々しさ

こんなはずではないと 焦りながら
こんな僕ではないと 否定しながら
今日も一日 僕ではないはずの
僕は 僕でいたんだ

僕ではないはずの
僕であり続けるために 一生懸命にさえなって
たくさんの視線の 見えない糸に
笑顔も表情も 操られて
神経の先にまで 張り巡らされた緊張感に
体は ぎこちなく条件反射して

ここにいると 誰もが
ありたくも無い自分を 強要させられる
見ていたくない自分に 仮装させられる

けれどもそれが さも楽しいことのように
この上もなく ありがたいことのように
思い込ませようとする 狂気が脳に染み出してくる
流す涙さえ 興奮に煤けた黒い涙だ

真っ赤なペンキで殴り書きされた 壁の上の落書き
悲鳴のような叫びだけが 引っかき傷のように
苦し紛れに 刻まれるだけで

僕は ほんとうはこんな僕ではないんだと
毎日 呟き 歯軋りしながら
けれど ほんとうの僕を 僕は知らない