風のささやき

たくさんの種を播いてくれた人よ
何かを求める事も無しに
その一粒一粒に
言葉にならない願いを込めて

それはいつしか僕の胸の奥に
ひっそりと芽を出した
僕が頬を濡らした
寂しい夜の闇も養分に変えて

たくさんの友の笑いよ
その楽しさは
空駆ける虹のように
鮮やかなアーチを心に描いた

いつまでも消えることのない
その色模様を眺めたくなり
芽はやがて小さな蕾をつけた
花咲く事を固く決め

暖かな春の雨は
微かに覚えている抱擁の暖かさ
僕の小さな存在を
その胸に抱きしめる者の
腕にあることの安心感が
花開く気後れを解きほぐし

働き者のミツバチの羽根音は
太陽の下に働くことの誠を教え
やがて蕾は白い花を一つ開いた
赤子のはにかんだ
微笑みのように嬉しげに

一つの花が咲くと他の花も
我先にと開いた
最早何の疑いも持たず
色取り取りに

そうして僕は
そこに目を閉じれば優しくなれる
花咲く野原を持つ人になった
たくさんの物が手を入れてくれた
香り高いその野原から

いつしか僕は種をまく人になる
僕の中に弾けそうな種を集め
まだ若々しい大地へと
願いを込めてこの指先を広げる

いつしかその人がしてくれたように
言葉にできない願いを込めて
空と地と風と水とに
その恵みを祈りながら