風のささやき

夜の鍵盤

心に流れるのは
物憂いだけの響き
僕の音色は何処にあるのだろう

闇に突き上げる両手は離れ
手首から重力に逆らい
虚空を這って行く
見えない糸に
吊り上げられるように

体はぐったりと
屍のように疲れているのに
寂しい目玉は暗闇に
その手を凝視して動けない

母親の胸元を
まさぐるように不器用に
時には溺れ苦しむように
動く指先の求めている
眠り誘う夜想曲
あるいは
永遠の墓標の鎮魂歌
光りの洪水の交響曲

窓辺に寄せる月光に
青白く光る指の関節
蝋人形のような手のひら

いたずらに歳を重ねて
夜な夜な闇に動めき
でたらめな音符を連ねる
哀れな生き者の定めに

闇夜に浮かぶ白い鍵盤を
今宵も押してみるのだ
静けさに響き消え入りそうな
やるせなき低音の最弱音