風のささやき

夜の白き花

汚れた水溜りのような
都会の夜の暗闇の中で

背筋を伸ばして
一生懸命に咲いている
名も知らぬ白き花よ

花びらの一枚一枚に
祈りにも似た
ありったけの力を込めて
病的な夜の指には折られまいと

酒に浮かれた人々は
さっきまでの自慢話に
興奮しきったままで叫んでいる

掻き鳴らされるギターの音に
乗せられて流れる
調子はずれの歌声

最終のバスを告げるアナウンスが
帰宅する人々の足を急がせて

そうして僕自身さえ今の今まで
酔った勢いの大きな声を
辺り構わず撒き散らしていたのだ
急にお前を見て黙り込むまでは
白い花よ

お前は一人で怯えていた
純潔なお前の言葉を
打ち消そうとする
声高な騒音に飲み込まれながら

だから僕は急に言葉を飲み込んだのだ
お前を怯えさせないように
その花びらが震えて散らないようにと

けれどお前は知らないのだ
夜の闇に凛と咲く
自分のほんとうの強さ
誰の目にも留まらず
自分の心持
咲かせ続けることのしなやかさ

お前の白さに悔いはない
誰の目にも留まらずとも

明日の朝日が
おまえをまた優しく摘み取ってくれる時に
お前はようやく安心して
深いまどろみに落ちていくのだ
誰も入っては行けない
お前の内面と一つに溶け合って