風のささやき

とある日

光届かない群衆の
うつむき黙した深海から
突然飛び出しては
むき出しの歯で
首にくらいつく
いくつもの顔

傷つき流す血の匂いを
すぐに嗅ぎ取り
群がる鮫のような貪欲

血走った目の奥底に
黒い欲望は光る
靴底で踏まれ続けた
屈辱を皺に隠して

なめ尽くされる
卑しい笑いが耳に飛び交う
眩暈がするほど鼓膜が揺らされる

街の明かりに海草のように
ユラユラと揺れるだけの人影や
海牛のように街角を這いつくばる人の
胸を悪くするもだえの渦にまかれ
失われてゆくだけの水平感覚

悪夢を見るよう
うなだれていると
やがて顔のない人ごみにつながれる
痩せた青白い魚のように
背を弓なりに心は溺れる
南国の花咲く島の
位置も見定められずに

ああ 青い海原を渡る
新鮮な潮風が僕に吹きつけるように
朝日のぼる水平線から
陽射しを頂いた波が足を洗うように
暗闇の衣服をはぎ取って
光あふれる方へと僕を向かわせよ