詩編:時の樹
古い木の家
梅酒
2年後の味わいを夕日
空をほのかに赤くした地上を濡らす雨
ああ 地上を濡らす小さな芽吹き
最初は地面から少しだけ顔を出したシャボン玉
また一つシャボン玉消えた一枚の落葉に
学校公開日の正門に膝掛け
ドアの外には語り部
祖母は語り部土蔵
重たい土蔵の扉遠い記憶に
閑寂な冬の陽射しが夕陽
まだ雪を残した山並みの向こう積み木の汽車
黄ばんだ紙を張りあわせた空を田舎の猫
薄暗い玄関の土間に佇んでいる一匹の猫見つめる瞳
黙って いつでも見えない手紙
まどろみの瞼に ふと古い夢
部屋の外で猫が鳴いている野良猫の後を追って
気取った野良猫が歩いてゆく合歓の木陰にまた
合歓の木陰で休む合歓の木陰に
頭上の太陽は障子の向こうに
障子を透かして雨と大木と
雨に濡れている この幸せ古い木の家
古い木の家は思っている大木の詩
太陽が 僕にさしている忘れられた少年に
卒業
もうここに届いてしまったどうしようもない大人
救われることなんて無いよと今日を
けたたましい声で笑いながら僕の魂は
僕の魂は広い野原を走り回りたがっている言葉
生きるごとに言葉は言葉の棘
もう何年も前の叫び
大きな声を上げて泣いている子供は青い涙
何時の間に僕はこんなにも万華鏡
小さい時分に貰われていった深く耕された日
僕がまた深く耕された日独りよがりの言葉
地面にへたばっているタイプミスの僕
無数の無責任な指は違和感
違和感を感じていた。苦き日
まだ知らない苦しさがあると知る日がらくた
布団の中は一人の苦しい世界だ歪み
僕は笑ってみせる黒い炎
太陽の汚れの僕の影が傷
間違って切ってしまった指先悲鳴
君はその悲鳴を聞くか中途半端な歌
すべてが中途半端な僕だけど青白い静寂の封印
その扉を開けば・・・ある日
今更ながらにして失敗
こっそりと胸の中にしまい白い歯に
僕と目が合うと漆黒の部屋に
重く錆びた扉が開かれて酸っぱい涙
また野焼きのような不吉な炎春疾風
春疾風生は
自分が滅びて行くことが一人で
この体と心とを与えられて何度でも、青空の下で
今日もまた 後悔の塵が積もるもう僕は何も
もう僕は 何も耳にしたくはなかった僕の業に
僕は 欲張り過ぎたのだろうか傷口
笹の葉の縁で指の先を切った新しい気持ち
寒かった風が光りに潤んで通りすぎて行く新しい気持ち
泉のように僕は時間を
一足飛びに時間を錆
かみ締めた林檎は錆の味がした熱病
寒々しい静かな夜だ籠の中の小鳥
籠の中の小鳥は寂しいここにいては
ここにいてはいけない朝の光に
ごらん忘れられた少年に
暗闇から 微かな物音が聞こえて