風のささやき

かみ締めた林檎は錆の味がした
金槌で殴るように鼻の奥が寂しかった
蜘蛛の巣のように血走る目をして
林檎を飲み下した

口の中に残る赤茶けた錆の余韻
切れ味の悪い包丁の錆
あるいは赤切れの指先の血
農薬の残る赤い皮の苦味
原因は本当は知っている
体にしみついていた錆が
ついに表に滲みだしたのだ

夕日と一緒に後悔を葬れば
引きずられて心は地に沈む
包丁のように研ぎ澄ました心の叫び
誰にも届かない遠吠えとなり
喉の奥をしょっぱい潮風が吹いて
声はガラガラだ
打ち捨てられた廃艦を
赤茶けたフジツボが覆う

この体が錆びついていること
うすうすと感づいていた
こんなにも進行が早いとは
正直思ってはいなかったけれど

血管の中もきっともう錆で一杯
体が錆び付いて腐食してゆくことを
もう止める術もない