風のささやき

生は

自分が滅びて行くことが
とても美しいことに思えていた
まるで桜の花びらが散り行くように
ほのかな紅の印象を残し
風の中に消えて行く
それが僕の定めだと

自分が滅びて行くことが
必然に思えていた
夕映えの中で燃え尽きるように
真っ黒な灰になって跡形もなく
泣き縋る骨の一片も残さずに

僕はその先のない生の果てに立ち尽くし
僕がゆえに足早な生を終わらせる
まるで早く摘まれすぎた一輪の花のように
真っ赤な血潮を喉の奥から美しく散らしてと

幻と消えた若かりし日の僕の矜持
覚めてしまえばたわいのない夢の果て

僕は摘み取られるほどには
美しい花ではなかった
僕の身が消し飛ぶほどには
失墜は激しいものではなかった

僕の緩慢な生は
僕に滅びることを許さないだろう
僕の骨はいつまでもこの地に残り
赤い土の中に混ざりこむだろう

滅びて行くにはあまりにも生は冗長で
美しく滅びるほどには
手を抜くことが許されない
思った以上に生は
この世に爪あとを残し
それを求められて人は
老いた手と向き合う